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価値を生み出すアート
アーティスト
淀川テクニックさん
智頭駅前を彩っている、カラフルな3本の杉をご存知だろうか。
ギンガムチェック、ストライプといったポップな柄に、着物の生地といった和柄…。
色鮮やかな布が夜にライトアップされたると、また特別な美しさを闇に放つ。
この作品「みんなの智頭杉」を作ったのが淀川テクニックさんだ。
数年前、大阪市から妻・千穂さんの実家がある智頭町に拠点を移し、アート活動を続けている。
彼が一貫して作品に使うのが、漂流物や自宅に眠るいわゆる「ゴミ(不要品)」だ。
この駅前のオブジェも、町民に呼びかけ、もう使わなくなった家にある生地を持ってきてもらって作っている。
「ゴミというのは、いらないもの。ダイヤモンドで作ったら当然いいものができるけど、
最初から価値のなくなったものが集まると、それはそれで価値のあるものになっていく。そんな魅力がある」
出身は、岡山県真庭市。公務員の父、老人ホームで働いていた母、一つ年上の姉、の4人家族。
「家系的にも、土壌も、アートとは何も関係なかった」という家からアーティスト、淀川テクニックは生まれた。
「芸大とかはダメだととか言われてね。今となっては、芸大に行こうが行かまいがどっちでもいいことなんですけど」。
地元高校を卒業し、大阪文化服装学院で学んで就職。1年間ニット工場で働いたが、アートへの情熱は冷めることはなかった。
「結局、つくって表現することがしたかったんですよね。今振り返ったら、だいぶ危ない橋を渡ってきてるなぁと思いますよ」。
フリーターをしながら、図書館に行ってはアートの勉強を積み、気になった人には積極的に会いに行った。
そんな中、2003年、ある芸術祭で主催者からゴミで作品を作らないかと持ちかけられ、
友人と二人で始めたのが「淀川テクニック」だった。その活動が、今につながっている(2016年からは一人で活動)。
少しずつ、その世界観は評価を高めていく。岡山県にある宇野港の「宇野チヌ」や沖縄県にある美ら海水族館のタカアシガニ、
最近では梅田に新設されたスターバックス(LINKS UMEDA 2階店)の壁に「みらみらの木」を制作した。
ゴミや漂流物を使い、カラフルで愛らしい作品が多い。
その独自のカラーセンスや造形力、もちろんその前提となる彼の創造力が、ゴミをゴミと思わせない輝きを放つものに変える。
数カ月後、自宅にお邪魔して話す機会があった。
原稿を執筆中だというのに、受け入れてくれるおおらかさもこの人らしさと、都合のいい解釈をする。
聞けば、自身の作風について書こうとしていたらしい。
「基本的には僕の作品なんだけど、ワークショップなどでみんなで作ることが多くて、
地元のおっちゃんが『あれはうちにあったゴミなんだ』とか言ったり、みんなの作品とも言える。
一方的に、有名作家の作品がきれいとかそういうのじゃない。今のやり方は新たなアートになってきているのかもしれないんですよね」
自らに問いかけ、答えるように呟いた。
ある日には鳥取の海に〝素材集め〟にいくと言うから、興味本位でついて行くことにした。
色や形を見てはどんどん袋に入れていく。時折、目の前にかざして考え込んだり。
ゴミという無からこうして彼の発想は始まり、アートとして表現されていく。
そして、少なからず人を巻き込んでいくその制作過程にも意味がある。
「はーちゃん(妻)が人を引き寄せてくれるから。基本僕は友達いないんで(笑)。それは智頭にいてこそなのかもしれない」。
智頭駅前の作業中にあったのは、手伝いに来ていた町民たちの笑顔や真剣な顔。
誰かの思いとともに、そこに価値が生まれていた。
text & photo:藤田 和俊